セミの声に端を発して学んでみた 組版よもやま話(その16)

 汗ばむ日が続きますが、最近「寄る年なみ」という言葉の意味を身をもって感じている、window tribeです。

 先日、ブログの中で生き物日記として書いた折、近所で見たクマゼミについてのくだりで当初、泣き声を「ミン ミン ミン」と書いたのですが、掲載前の社内チェックで、クマゼミはミンミンとは鳴かないとの指摘を受けました。ミンミンと鳴くミンミンゼミは東日本、あるいは西日本の高地にしか生息していませんとまで調べてもらって、「こりゃあ、おじさん一本取られたわ」な感じです。

 私たちは印刷会社として言葉を扱う仕事をしていますが、このようにセミの鳴き声一つとっても、読んでくださる方により正確な表現を届けようと、その背景にまで突っ込んでくれる仲間がいる事を心強く思った次第です。そして転んでもタダでは起きない私の性格で、動物の鳴き声で1本ブログが書けるなあと思考が繋がってしまいます。


 心中はセミ一般だったらミンミンでも良かろうとか思いつつも、クマゼミと書いた以上、素直に訂正します。丁度その時に使った写真は下にあります動画も併せて撮っていたので、再生して聞いてみますと私の耳には大きくお腹を震わせている時には「ミシ ミシ ミシ」と聞こえますので、それで押し切ってしまいましたが、他の人に聞かせるとミシミシとは聞こえないねぇ、と言われました。

クマゼミの鳴き声

 そんなことで毎度の付け焼刃の勉強を始めたのですが、Wiki先生で調べていると、松尾芭蕉の「奥の細道」で出羽国の立石寺で詠まれた名句、「閑さや岩にしみ入る蝉の声」も似たような論争が大正年間に有ったようです。

 どくとるマンボウの北杜夫の父で歌人の斎藤茂吉が、このセミはアブラゼミであろうと書いたところ文学論争が起こり、翌年に岩波書店の創業者、岩波茂雄が文人を集めて議論してもらったそうです。

 漱石の弟子という経歴を持つ小宮豊隆からは、威勢のよいアブラゼミじゃあこの句に合わないし、歌が詠まれた元禄2年5月末は太陽暦に直すと7月上旬となり、アブラゼミはまだ鳴いていないのでニイニイゼミじゃあないのかという主張も出たそうですが、決着がつかず、2年越しの論戦の後、茂吉が山形県に出向き立石寺で実地調査をしてニイニイゼミだったんだろうなと、自らの誤りを認めたという逸話がありました。


擬声語とオノマトペという言葉を知った

 このような音や声を表す言葉を「擬音」と言うのだとばかり思っていたら、擬音は、映画の効果音などの実際の音に似せて道具などを使って人工的に作り出す音だそうです。

 かの金田一春彦先生によると、動物の声や虫の音を表すのは「擬声語」、自然界の音や物音を表すのは「擬音語」と言うそうです。フランス語でおしゃれに言うと「オノマトペ」と言うそうです。


 一旦セミの話に戻りますが、ツクツクボウシは「ツクツク ホーシ」、ヒグラシは「カナ カナ カナ」、セミの鳴き声の代名詞ミンミンゼミは「ミーン ミン ミン ミン」などと文字化されていますが、このように種類によって鳴き声が異なって聞こえます。

 そのうえ先程の動画のクマゼミでも、お腹を大きく震わせる時と小刻みに震わせる時では全く違う音色になります。種類が変わって大きさや形状、生態が変われば鳴き声も変わる道理です。

 この暑苦しさを押し上げる騒音のようなセミの声も実は雄だけが発する「愛の囁き」だそうです。田舎暮らしの私が日の出前に目が覚めて静かな朝だと思っていても、裏山で一匹のセミが鳴きだすと一斉にみんなで意地に張り合いのように愛の囁きの大合唱が始まります。


セミ以外では

 私の世代では考えられなかったことですが、近年は小学校でも英語を教えているそうで、擬声音の代表格の犬の声は、日本人に聞くとほとんどの人が「ワンワン」と答えると思いますが、英語圏の人では「BOW WOW(バウワウ)」、猫のは「ニャア」が英語圏では「meow(ミャオ)」と習うそうです。

 これが他にもフランス語、ドイツ語、ロシア語、アラビア語、中国語・・・など多くの言語では、似たような表現がある国々もあれば、全く違う表現の言語もあるようです。


 ここで私の頭の中に新たな疑問が発生します。

 一つ目の疑問は日本では「ワンワン」と十把一絡げとしていますが、シーズーのような小型犬からセントバーナードのような大型犬までで表すのは無理がある気がします。ググってみますと「わんわん」という言葉は江戸初期の家光の時代に表された本に書いてあったそうですので、「わんわん」はその当時からいる日本の犬の声を表したもののようです。しかしここでも日本原産のチンのように小型犬もいれば、南蛮渡来の大型犬もいたようですので、どの犬種が「わんわん」と聞こえたのかを考えると奥が深そうです。

 二つ目の疑問は動物間の意思疎通で、動物でも言語の違いや方言のようなものがあるのかという疑問です。そんな私のような疑問はとっくに科学者の方々が研究されていて、猿やクジラでは「方言」のようなものがあるそうです。声や音の高低で特徴があり、それで地域や群れ毎のコミュニケーションがあるようです。


 セミの声に端を発した勉強ですが、最後に私的に一番の発見です。ニワトリは日本では「コケコッコー」ですが、英語圏では「クックドゥードゥルドゥー(cock-a-doodle-doo)」で、いったいどういう聞き方をしているんだといつも思うのですが、フランス語の鳴き方は「ココリコ(cocorico)」だそうです。漫才コンビの名前だとばかり思っていましたが、知らなかったです。


 このように、まだまだ知らないことが多いのですが、自らが未完成である事は、良いようにとれば伸びしろがあるということで、今回も小さな疑問からこれだけ幅広く学べました。

 校正紙の上で、疑問点をお尋ねする事もあろうかと思いますが、より良い本づくりのためには、お客様の声が一番の先生となりますので、宜しくお願い申し上げまして取り留めのない文を締めくくります。

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