読書のススメ その2 -『家なき娘』-

シンです。やっと涼しくなり、秋らしくなってきました。
秋といえば、食欲の秋とも言いますが、やはり読書の秋ですね。(ちょっと強引?)

ということで、今回のブログはおすすめの本の紹介です。
本のタイトルは『家なき娘』。このタイトルにはなじみがないかもしれませんが、昔、世界名作劇場というテレビアニメシリーズの一つで『ペリーヌ物語』として放送されていましたので、こちらはご存知の方が多いかも知れません。

作者はフランスの作家、エクトール・マロ。この名前を知らなくても、有名な『家なき子』の作者だと言えば多くの方がお分かりだと思います。『家なき娘』はこの『家なき子』の姉妹作とでもいうべき作品ですが、あまり知られていないのは、翻訳がわずかしか出ていないせいもあるかも知れません。

入手可能な翻訳について

『家なき娘』の現在入手可能な翻訳としては、完訳としては次の2つだと思われます。

一つは岩波文庫の津田穣氏によるもの。古くから完訳として定評がありますが、何しろ昔の翻訳なので、歴史的かなづかいなどで読みにくいという欠点があるのと、長らく絶版の状態で2000年に一時復刊したものの、現在は版元では在庫切れの状態のようですので、本屋さんの店頭の在庫を探すか、古本屋さんで探さないかぎり入手困難の恐れがあります。

もう一つは偕成社から出ている、二宮フサ氏訳のもの。最近の翻訳で、対象が小学生上級以上なので訳も読みやすく、入手も先ほどのものよりも容易なので、こちらの方がおすすめです。

おススメの理由

この作品は、確かに子ども向けに書かれたものなのですが、子どもだけではなく、大人が読んでも十分に楽しめる内容なのがおススメの理由です。むしろ、この物語の時代背景等は、最近の子どもの生活している環境とはあまりにかけはなれているため、大人の方がよく理解できるかもしれません。

あらすじの紹介

物語の主人公はペリーヌという一人の少女です。父が病気で亡くなり、母と二人でホロ馬車(引いているのはロバですが)で、父方のペリーヌのおじいさんにあたる富裕な事業家のビルフラン氏を訪ねて、フランスへと旅をしてきますが、パリに着いた直後、母も長旅の過労で亡くなってしまい、一人きりになってしまいます。

そこからおじいさんの経営する紡績工場のある町まで徒歩で行く途中、行き倒れて死にそうになりながらも、ようやくその町に着きます。すぐにおじいさんに孫であると名乗りを上げれば、そこでめでたしめでたしで終わりなのですが、お父さんは結婚の際、おじいさんからの猛反対を押し切っていて絶縁状態、とりわけお母さんは憎まれていたようなので、すぐに自分が孫であると名乗り出ることができずに、オーレリィという偽名で工場で働き始めます。

初めは機械が紡いだ糸巻をトロッコで運ぶという単純な仕事でしたが、ふとしたことから英語が話せることが幸いして通訳の仕事を任されるようになり、さらにはビルフラン氏の秘書となって、物語はハッピーエンドへと向かいます。

オススメの場面

ストーリーの中で、私が最も面白いと感じた場面が2つあります。
一つは、まだペリーヌが工場に入ったばかりの頃、お金を節約するためにシーズンオフで使用されていない狩猟小屋で寝泊りをし、近くの野に生えている植物や川の魚など、自然にあるものをうまく使って料理をしたりするという、素朴な自然の生活の描写の場面。

もう一つは英語が話せることがきっかけとなって、トロッコ押し、通訳、秘書へと次々に昇進していくサクセスストーリーです。食堂で、同じ工場の大人たちの会話をそっと近くで聞いて、大人顔負けに、今で言う情報収集をする場面もあります。昔は今のような豊かさがない分、子どももしっかりしていたのかも知れません。

原作とアニメの違いについて

この作品(原作)と冒頭に紹介したアニメで最も大きく違うのは次の3点でしょう。
一つはペリーヌの容姿。アニメではどう見ても白人の女の子という設定でしたが、原作では一目見て混血であるとわかる(母はインドの出身だった。)という描写が物語の冒頭の方にあります。
二つ目は原作ではいきなりパリに着いたところから話が始まるのですが、アニメではパリに着くまでのお話が付け足されていること。
最後は、アニメではバロンという犬が出てきますが、原作には出てこないこと。旅の途中、食うや食わずで過ごすことが少なくない境遇では犬を飼う余裕は実際問題としてなかったはずで、犬を登場させるのはお話を面白くするための創作と思われます。

とはいえ、その他はアニメはおおむね原作に忠実につくられており、原作を読む前にアニメを先に見るというのも入りやすくていいかも知れません。世界名作劇場は大半がDVD化されていて、レンタル屋さんで借りられます。

おわりに

偕成社版の『家なき娘』の物語の終わりの解説には、ビルフラン氏の工場のモデルとなった実在の工場の現在の様子が訳者による現地レポートとして掲載されており、大変興味深いです。
残念なことに、1970年代にこのモデルとなった工場は倒産してしまい、今では他の会社に買い取られて細々と生産しているだけだそうです。倒産した原因は、麻などの天然繊維にとってかわる安価な化学繊維の台頭という時代の流れに乗り遅れたためであると伝えられています。

さて、このように子ども向けの作品の中にも、大人が読んでも楽しめる、というか大人ならではの読み方ができる作品があるということを知っていただければ幸いです。
さらに大人と子どもが同じ本を読んで感想を話し合うといった楽しみもあるでしょう。

大人向けの本ももちろん大事ですが、たまにはこうした子ども向けの本を読んでみるのも新しい刺激になっていいのではないでしょうか。では、また。

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