しまなみサイクリング入門(10) 大島 地上の楽園編

 楽しいはずの「しまなみ海道」サイクリングの中で、前回のようにハンガーノックでダウンするなど、これまで良い思い出の無かったために、通り過ぎる事がだけが目的だった「大島」なのですが、一周サイクリングを終えて、肩の力が抜けてみると味わい深い大島の姿が見えて来ましたので、今回は一転して「大島 地上の楽園」編と題して書いてみます。


お奨めのカントリーなカフェ3軒

 前回のサイクリングでは、大島外周を雨天の中、ストイックに食べる時間を惜しんで走り回った挙句にぶっ倒れたので、今回その反省で食べ物の事からスタートします。

 以下の三軒のお店は、大島に移り住んできた方々が地域に溶け込みながら作り上げた非常に手作り感のあるお店です。

 サイクリングでしんどい坂道を通り過ぎるだけが目的だった私の大島嫌いを「そのためにわざわざ来る」という目的を与えてくれた落ち着けるお店たちです。


 大島で美味しいものを語る上で外せないのが島の北西に位置し、週末の数日しか営業しないパン屋さんの「ペイザン」です。

 ここに通うようになったのは毎月通っている尾道のお蕎麦屋さんに「大島のペイザンにもう行った?」と聞かれて「まだです」という会話の中からです。当時アンチ大島だった私ですが、ミシュラン料理人に良かったと勧められると行かない訳にはいきませんでした。そしてここから大島に対する見方に変化が起きてきました。

瀬戸内海に浮かぶ、小さな島の天然酵母のパン屋さん ペイザン
瀬戸内海に浮かぶ、小さな島の天然酵母のパン屋さん。ペイザンは天然酵母、素材にこだわって、手作りの石窯で丁寧に焼いています。

 島の外周を吉海町の造船所のある所から脇道に入り、下の写真にあるようにガードレール脇に付いている非常に見え辛い小さな看板を目当てに路地に入り、奥に進むと小高い所に、これまた目立たない平屋建ての建物が見えてきます。 週末になると、こんな目立たない所に多くのお客さんが押し寄せてくるので不思議です。

 田舎暮らしがしたいと移り住んでこられたご一家ですが、固定収入のため勤めに出て拘束されていては何のための田舎暮らしか分からなくなったので一念発起でパン屋を始められたそうです。最初は機械を買うお金がないから生地を手でこねて、オーブンを買うお金がないから石窯を作ったという感じだそうで、材料もオーガニックで揃えているコンセプトが周囲に認められています。

 11時開店でパン販売が始まり、大半が売れて一息ついた12時からはカフェタイムが始まります。

 見方によっては廃材にペンキを塗って作ったようにも見えるお店ですが、要所を押さえて趣味の良い居心地の良さを醸し出しています。

 自転車でパンを持ち歩くのは嵩張りますので、ここではいつも数々のパンが味わえる「パンプレートランチ」を頂くことにしていますが、季節ごとに変化のある彩りの地産地消のスープや付け合せの野菜には「滋味」という言葉がよく似合います。


 お次には島の南東部にある友浦地区界隈のお食事スポットを2軒ほど紹介したいと思います。

 まずは「食堂みつばち」から。友浦港から海沿いを西に進んで人気のないエリアに入ってしばらく進むとテラスが水色にペイントされた木造の別荘だった建物が目に入ります。

 ここは先ほどのペイザンのご主人夫婦の力添えで始められたそうで、お店の雰囲気がどことなく似ています。4月に自転車でやって来た時には一本桜が見事で、じっくりと見入ってしまいました。 店内に入ると先ほどの水色にペイントされていた部分は窓際で外の風景を見ながら食事が出来るようになっています。その窓ガラスに海と空を借景にして白いペイントでメニューが描かれているのが秀逸です。

 ランチ時は「本日のお魚ランチ」か「焼きチーズカレー」がお勧めですが、私は行くたびにお魚ランチ一択です。メインは主に鯛のムニエルの事が多いのですが、その身の厚さで刺身だったら何人前とれるのかなど要らない心配をするくらいボリュームがあり、皮のパリッとした感じと身の噛み応えを堪能します。 とか言いながらも・・・ 実はこのお店は昨年末で不動産契約の関係らしいですが閉店されて、今春に新たな場所で再開されるそうですので、新店の情報を楽しみにしています。


 さて、もう一軒のお奨めのお店は、友浦港辺りから少し山間に入った所にある「友浦サイト」というこれまたカントリーなお店です。

 ご主人がカナダ人で奥様が今治出身のご夫婦で営まれていますが、大島で地元野菜・果実を扱う八百屋もコンセプトにされています。

 この時にはレモン風味の「サザエのパスタ」を頂きました。もう一つの看板メニューの「ふわふわ玉子かけご飯」はまだ試していませんので、まだまだ大島に通う理由に事欠きません。


観潮船で急流観光

 大島は西瀬戸自動車道が北東部の伯方・大島大橋から南西部の来島海峡大橋にかけて貫いていますが、その両端部分は元来瀬戸内海でも潮流の急な難所で、中世には来島村上や能島村上の水軍が活躍していたことでも知られています。


 前回の雨天の中での大島一周サイクリングの翌日の帰途に、サイクリングは早々に諦めて、大島の今治寄りの道の駅「よしうみ いきいき館」で「来島海峡急流観潮船(うずしお体験)のチケット(大人1500円)を買い、普通に観光してきました。

 天気が悪いので乗船客は数えるほどしかいないので楽々乗船できましたが、行楽期は満員の便が多くなかなか乗れないこともあります。

 この日は天気の悪さを跳ねのけるほどラッキーな事に、最も潮流の激しい時間帯の乗船でした。

 「来島海峡大橋」の下に点在する島の近くでは、水深の浅い部分は底の方からエメラルド色の海水が湧き上がってくる感じで迫力があります。

 来島村上の本拠地だった島や今治の造船所沖近くも歴史を語りながら回ってくれて、約50分のクルーズの最後にはガイドのお姉さんの「瀬戸の花嫁」の歌が入りますが、この時は横なぐりの雨でそれどころではなかったです。


 しまなみ海道サイクリングで、大島の北東部にあたる「伯方・大島大橋」を下りて宮窪エリアに向かう間だけは、大島でも風光明媚な光景を見る事ができます。

 サイクリングしだした当初は岸側の急な流れの沖合いに「桜の咲いた平たい島がある」くらいにしか思っていなかったのですが、三つの村上家の中でも特に勇名をはせた能島村上家の本拠地「能島」などその頃は「興味がありません」でした。

 しかし、しまなみ海道に何回も通って行くうちに「村上水軍」を知ることは避けられない事柄になっていきます。

 前述の来島で雨天の中で観潮船に乗りましたが、能島の方でも別の機会で今治での一泊サイクリングの帰途に、これまた予期せぬ雨に見舞われ雨宿りがてらに村上水軍博物館前の「能島水軍潮流体験船」に乗ってみました。

 来島海峡の時ほど湧き上がるように激しくは無い時間帯でしたが、能島の周りでは海というより川の急流な感じで、観潮船もエンジンを切って流れに身を任せてくれます。

 昔は帆と艪の力でこの流れを跋扈していた村上水軍に思いを馳せるように、能島の岩肌には往時の船を係留していた杭の遺構を見ることもできました。

 もっと詳しい事が知りたくなったら村上水軍博物館に行くと大人から子供までわかり易く解説されています。
 また乗船所のレストランで海鮮料理も楽しむ事ができ、観光期には大いに賑わっています。


高い所に上がってみよう

 海面で急流を堪能したので、次は高い所に上がって風光明媚な風景を眺めてみましょう。ただし大島縦断の坂道でさえ音を上げるへたれですのでズルをして原動機の付いた自転車で上がりました。 

 「来島海峡大橋」が眺められるスポットは「亀老山展望公園」です。東京オリンピックの新国立競技場の仕切りなおしのコンペで採用されたことでも知られる隈研吾が設計したパノラマ展望台が斬新です。

 全長4kmにわたる来島海峡大橋が、点在する島を足掛かりに、第1から第3の3つの吊り橋で架橋されている様子を知ることができます。


 「伯方・大島大橋」が眺められるスポットは「カレイ山展望台」です。展望台に上がる前にその足元にある「遠見茶屋」というカフェでは「カレイ山山頂で限定のカレーを食べる」のが洒落ています。有名店の監修で鯛アラのだし汁で作られて、野菜の彩りが良いアクセントになっています。

 また眼下に先ほどの能島を見ることが出来るのですが、ここでは和田竜作の小説「村上海賊の娘」の舞台を間近に眺めて、作中の光景に思いを馳せながら読むのは最高の贅沢です。

 和田竜の作品は野村萬斎主演で「のぼうの城」、大野智主演で「忍びの国」と映画化されているので、ここでも映画化されないかと期待しています。

 遠見茶屋の真上の展望台に上がりますと視界を遮ることなく風景が開けます。早朝に行くと心が洗われるような光景です。

 そして最近ご無沙汰ですが、飛行機好きの私にとっては、水上飛行機の「せとうちシープレーン」での遊覧飛行は能島が折り返し地点になりますので、望遠の効くデジカメ持参で撮影もします。特に「紅の豚」塗装の「ラーラ・ロッソ」が来た時は儲けた気分ですがちょっと曇り気味だったのが残念でした。


 「しまなみ海道サイクリング中毒」も第一段階の推奨ルート走破に始まり、第二段階の全島をそれぞれ一周をコンプリートして一息つきます。

 当初は坂道がしんどくて大嫌いだった大島も、今回ご紹介したように、いつの間にか大好きな大島に変わってしまいました。

 普通の人はこれだけでも十分満足と思いますが、この先の楽しみ方を求めてどんどん深みにはまっていく第三段階に次回から突入します。

 

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