尾道で美酒に出会う。 良いとこ尾道 第6回

 麺類や朝食・ランチなどの尾道の食べ物について書いてきましたが、そろそろ大人の時間「夜の尾道」について書いてみます。

 尾道駅からアーケード街を東に向かい、アーケードが切れた辺りから尾道の歓楽街「新開(しんがい)」となります。私が酒の味を覚える以前に新開に全国に名を轟かせていた「暁」という名物バーがあったのですが、後継者がなくお店を畳まれた名残が残っていました。今も営業されていれば勉強に通っていると思います。

 そんな古い中に徐々に新しいお店が芽生え始めている新開を歩いていますと昭和の雰囲気が漂う大衆酒処「米得(よねとく)」というお店にたどり着きます。以前はうらびれた大衆食堂だったのですが、尾道の飲食界で勢いのある「いっとくグループ」がそのイメージを生かしたまま手をいれて営業しています。

 キンキンに冷えたジョッキにソーダを注いだ瞬間にシャーベット状になる酎ハイと煮込みで立ち飲みと洒落こむことも出来るのですが、ここのお奨めは腰を据えて「肉鍋」。一人前1500円の二人前からの注文になりますが、牛・豚・鶏の肉がタワー状に盛り込まれたインパクトのある姿で目の前にやってきます。鶏がら・昆布ベースの唐辛子味噌スープに火が入ると姿を変えながら食べ頃に向かっていきます。はふはふといただいた後は、卵やチーズを入れた雑炊にして最後まで平らげます。


 「米得」の斜め向かいにあるビルの2階は、カルロス=サンタナの名曲が店名になっているレストパブ&ライブハウスオエコモヴァ」になります。
 マスターが音楽を楽しみながら食事できる店をと立ち上げられたそうです。ビールに合うスペアリブやピザなどガッツリメニューが多いですが、ここでは口周りと手を汚さずに食べるのは至難の業の大振りなハンバーガーが一押しです。(後ろのグラスと大きさを比べてください)

 以前ライブで行ったのでは、ドラゴンボールZのテーマ曲「CHA-LA HEAD-CHA-LA(チャラ・ヘッチャラ)」で有名なアニソン界のプリンス・影山ヒロノブがギター一1本で繰り広げる「アコギの旅」で大いに盛り上がりました。(今度は10月19日(金)で行けそうにないです)


 新開から西側に戻り尾道の超有名中華そば店「朱華園」の斜め向かいにご夫婦で営まれる「そば鴻」さんは、お向かいの賑わいと対象的にゆったり寛げるお店です。店内は写真好きのご主人の趣味で、カメラやパネルが壁を彩っています。

 お酒はワイングラスで供されますが、一緒に来る玉子焼きとそば味噌の付き出しが秀逸です。この時の日本酒は山岡酒造の「いい風」でしたが味噌に刻んだ白ネギの香味が合わさって唸ります。


 新開に戻り夜が更けて飲むには、見るからに開き方の分からない鉄の扉で隠れ家のようなBar、「スリジエ」が渋いです。聞きなれない店名ですがフランス語で「桜」という意味だそうです。
 入るなり007、ジェームズ=ボンドのパネルが目に入りますが、私のような世代はやっぱりショーン=コネリーですので一気に雰囲気が出ます。
 各席スポットライトで手許が燈されたカウンターでは、ジェームズ=ボンドを気取って「Vodka Martini, Shaken, not stirred (ウオッカマティニ、ステアではなくシェイクで)」と言ってマティニを飲むもよし、ラフロイグやアードベックなどのスモーキーなスコッチに丸く削られた氷が解けていくのを楽しむもよしで、物思いしながら夜が更けていきます。


 ここまではたまにしか行っていないお店をピックアップしたのですが、実は毎月通っているお蕎麦屋さんがあります。知っている人は知っている、分かりにくい路地にあるお店で、私が書いた位では人が押し寄せる事は無いのですが、すこぶる客層が良いところで店名はあえて書きません。(写真に小さく写ってはいますけど・・・)

 古い住宅に手を入れた中にささやくような落語をBGMにした静謐な空間ですが、ここでは日本酒のセレクトが秀逸で自分で悩んでも良し、ご主人に選んでもらっても良しです。

 以前ご主人にチョイスして頂いた下の写真のワインボトルのようなお酒は長野の小布施ワイナリーがシーズンオフに少量作る日本酒「Le Sake Erotique(ル・サケ・エロティック)」 という艶めかしい銘柄ですが、裏のラベルを見ますと「辛い恋慕や狂おしい恋愛を経た大人の男女」にしか分からない味として付けられたネーミングだそうです。このシリーズは戦前に頒布中止になっている1~5号酵母を復活させて、秋田の新政の6号酵母、長野の真澄の7号酵母をラインナップしてきました。8号は欠番で、目の前にあるのは「NEUF(9)」と番号がふられた日本酒の鑑評会では定番の9号酵母で醸されたものでしたが、幸運にもこういった貴重品とも一期一会できましたので、行くたびに何がしかの勉強をさせてもらえます。

 また、先ほどのそば鴻さんの付き出しもいいのですが、ここの醤油豆のポリポリ感は病みつきになります。

 酒の肴はウルカ・酒盗など発酵系の結構マニアックなものもあり飲み手を試される事もありますが、卵焼きや丸干しイカと熱燗でちびちびやる時は日々の憂さを忘れる事ができます。そして最後にお蕎麦をすすり大満足しますが、これほど気持ちよくお金が使えるお店はそうそうないです。

 

コメント