シンのおススメの本の紹介 「ガリバー旅行記」

 ガリバー旅行記シンです。
あれほど暑くて仕方がなかった夏が過ぎ、すっかり秋の気配が朝晩に感じられる今日この頃ですが、みなさん季節の変わり目で体調を崩されてはいませんか?

さて、今月のブログはテーマ月で読書の秋にふさわしく「おススメの本の紹介」ということですが、正直最近あまり本を読んでいないので何を取り上げようか悩みました。

少し前には代小説をあれこれ読んでいたものですが、それもそろそろ飽きてきたのと、最近老眼のせいか視力が落ちてきて、小さな活字を読むことが苦痛になってきたために読書からは遠ざかっているのが私の現状です。

そこで今回は、私が椎間板ヘルニアの治療のため入院中に読んだジョナサン・スウィフト(1667-1745.アイルランドの風刺作家)の「ガリバー旅行記」をご紹介しようと思います。入院中の暇な時間に、病室に持ちこんでいた電子書籍端末「KOBO」の中に青空文庫から以前にダウンロードしていたのが入っていたので試しに読んでみると、読む前に考えていたイメージとはかなりギャップがあって驚いたのでご紹介することにしました。

1.「ガリバー旅行記」は実は童話ではなく風刺文学

「ガリバー旅行記」というと、な~んだ、小さいころ誰もが絵本などで読んでいる童話じゃないかという声が聞こえてきそうですが、「ガリバー旅行記」は本当は童話ではなく、旅行記の形を取った風刺文学なのです。

ほとんどの人がガリバー旅行記といえば、乗っていた船が嵐で難破し、流れ着いた先が小人の国で、いざ目が覚めて起きようとしても気を失っている間に体中をロープで固定されて起きれないという主人公ガリバーの滑稽な場面を思い浮かべると思いますが、実は原作ではガリバーの冒険は4つあり、有名なリリパット国(小人の国))への渡航記以外にブロブディンナグ国(巨人の国)・ラピュタ(空飛ぶ島)・ラグナグ(不死人間のいる国)や日本など5つの国及びフウイヌム国(理想的な馬の国)への渡航記があります。

この物語の主人公「ガリバー」という名前がそもそも「愚者」という意味だそうで、旅行記の形を取ってイギリス人さらには人間全体を風刺するとともに、最後の旅行記となる平和で非常に合理的な馬の国(フウイヌム国)においても、理由もなく同種族で争う性質を持つ「ヤフー」という、人類を否定的に歪曲した野蛮な種族を登場させ、人間それ自体を痛烈に風刺しています。そのため、「ガリバー旅行記」は1726年に書かれてから289年たった今なお偉大かつ不朽の風刺文学の一つであり、これまでに書かれた最高の政治学入門書の一つであると言われているそうです。

なお、「ガリバー旅行記」の正式な題名は、「船医から始まり後に複数の船の船長になったレミュエル・ガリバーによる世界の諸僻地への旅行記四編」という何とも長いタイトルです。

2.ポータルサイト「Yahoo!」と旅行記に出てくる「ヤフー」に関係があるのか

結論を言えば、関係があります。「Yahoo」には「ならず者」という意味があります。Yahoo!社の創始者であるジェリー・ヤン氏とデビッド・ファイロ氏は、自分たちが「ならず者」であるがため社名にこの呼称を選んだと説明しているそうです。しかし、なぜこのようなマイナスイメージの言葉を社名に選んだのでしょうか。それを説明するには、ガリバー旅行記の中の「ヤフー」の意味について考えてみる必要があるでしょう。

フウイヌム国では、理性的な馬が主人で、外見が人間そっくりの凶暴で愚劣な「ヤフー」が奴隷として働かされています(思うに沼昭三作の小説「家畜人ヤプー」もこのヤフーからきているのでしょう)。実は「ヤフー」は作者のスウィフトが生きていた時代、ヨーロッパの白人社会で忌み嫌われていたユダヤ人の象徴ではないかと言われています。石ころのような金塊(ダイヤモンドとも)に異常に執着し仲間同士で奪い合い、食べ物を独り占めしようと奪い合う鬼畜のような存在として「ヤフー」は描かれていますが、これはまさに、当時の白人社会におけるユダヤ人に対する偏見を象徴しているかのようです。スウィフトはこうしたユダヤ人に対する偏見を愚かなこととして風刺をもって指摘したのではないでしょうか。

このような背景を考えると、「Yahoo」が「ならず者」という一見マイナスイメージを持つ言葉が、逆に見れば周囲の偏見に屈しないというプラスの意味合いを持つとも取れます。どうやら「Yahoo」が社名に選ばれた理由はその辺にあるのかも知れません。

3.作品中の日本の扱い

最初の方で述べたように、ガリバーは航海中、日本にも立ち寄っています。私が、この本を読んで疑問に思ったのは、ガリバーはなぜ渡航場所の一つに日本を選んだのか、また、登場する国の名前は基本的に全て架空なのに、日本だけが実在の国であるのはどういう理由なのかということです。

これは確たる根拠もない私の考えなのですが、作者のスウィフトの未知の東洋への憧れの表れではないかという気がします。昔、日本は「ジパング」と呼ばれ「黄金の国」として西洋から羨望のまなざしを向けられていた時代がありました。スウィフトが生きていた時代も、実際に日本に来航するヨーロッパの船が多くなり、「ジパング」が伝説に過ぎないことが明らかになりつつも、まだその影響が残っていて、イギリスの在り方に不満を募らせていたスウィフトにとって、まだ見たことのない日本が魅力的な国に思えたから、代わりにガリバーに行かせたのではないでしょうか。また日本を実名でそのまま使用したのは、実名で取り上げてもどこからも苦情が来ることもあるまいという腹積もりがあったからかもしれません。スウィフト自身、まさか自分の作品が後に日本でも広く読まれるようになるとは予想だにしていなかったことでしょうから。

おわりに ~その後のガリバーとその後の作者について~

私が読んだ青空文庫版の「ガリバー旅行記」は広島で被爆し、原爆の詩を書いたことで有名な原民喜(はらたみき 1905-1951)の翻訳によるものですが、訳者の意図からなのか、フウイヌム国から帰った後のガリバーの暮らしに関する部分の翻訳がないそうです。

原以外の翻訳によれば、すっかり人間ぎらいになってしまったガリバーは、田舎に移り住んで2頭の馬を購入し、フウイヌム国でおぼえた馬の言葉で毎日馬と会話する時だけ安らぎを覚えるという余生を送ったという結末なのだそうです。確かに何だか狂気じみていて救いがない感じで、このため原の翻訳では省略されてしまったのかも知れません。

余談ながら、「ガリバー旅行記」を書いてのち、作者のスウィフトは発狂してしまい、翻訳者の一人である原民喜もまた翻訳の出版を待たずに鉄道自殺してしまいます(翻訳が出版されたのは死後3か月後のことだそうです)。この事実に何か運命的なものを感じるのは私だけではないと思います。

ともあれ、原作の完全な翻訳を求める向きには原民喜の訳は不向きなのかもしれませんが、青空文庫で誰でも無料で読める点、原作のごちゃごちゃしたところがカットされていてとても読みやすいという点で原民喜の訳はおススメできると思います。

これからなお一層本格的な「読書の秋」の季節となりますので、もし私の拙い紹介文で興味をもたれた方は、ぜひ一度「ガリバー旅行記」を読んで見てください。では今回はこの辺で。

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